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2015年7月21日火曜日

論文を作成する取り組みのパターン

新テストや、SGH,国際バカロレアが着目される中で、高校卒業までに生徒が論文を作成する、という取り組みが一つの潮流となっています。そこで、いくつかのパターンを見てみましょう。

○中2、中3、高1で書き上げる

中1での地域フィールドワークで調査方法を体験的に学んだことを土台として、中2、中3で「探究」の授業時間を設け異学年ゼミを組織し、自分の問いを練り上げていき、高1で書き上げて、高2からは大学受験に向けた勉強に進む。紀要を作成し、各ゼミでの取り組みが共有できるようにしている。

○大学への内部進学者を対象とした希望制

中学では学校全体のテーマに沿った探究的学習を行い、高校で大学内部進学者を対象として総合的な学習の時間や選択授業の時間を使って、図書館でのテーマ選び、グループ内でのサブテーマ出し、中間発表、書き上げ、公開発表(外部受験者も参加可能)。優秀論文は全文掲載する紀要を作成。

○全員を対象

高3で「論文」の時間を週2コマ設け、放課後には週2回、大学のライティング・ラボから大学院生のチューターを派遣してもらい相談できるようにしている。卒業論文作成ガイドを作成し、優秀論文を紀要に掲載。1年生、2年生向けに発表。自宅で書いて、授業では対話を中心に指導。

○中学生での月一発表会、「働く」をテーマに卒業論文

毎月送られてくるナショナル・グラフィックの写真から、3枚をピックアップし、どこが気になったのか、何を感じたのかを書く。平行して、学年共通のテーマについてグループワークを行い月に一度、全学年の集まる場で発表する。特別に授業の時間は設けず、学校行事や総合的な学習の時間、ロングホームルームの時間を使って指導。中学3年生で「働くこと」をテーマに卒業論文を書く。
やりたいことを調べて書く、というものでなく、自分の選んだ職業の現状と問題点を踏まえた上で、将来の展望などを書く。この時、必ずその職業の関係者へのインタビューを入れる。ゼミ形式で教員一人に生徒三人がつけられるが、特段授業の枠は設けていない。中2では、多くの社会人を呼んで話を聞くことに加え、会社からミッションを受けて最終的に社長にプレゼンテーションをする。高校ではクラス内でコンペを行い、代表のみが集まり発表。
この取り組みを始めた1期生が高3だが、模試の結果を見ると、中1、中2は低空飛行だが、中3からぐっと上がる。外部から高校に入った生徒と比べると、初期値は外部入学生が高いが、スイッチの入りが遅いのか、後で内部から上がった生徒に抜かれる。目標や問題意識を持つことがとても大事、ということを再確認する結果となった。

10年の道のり

論理エンジンを使い始めておよそ10年になるという関東の中学校高等学校にお邪魔いたしました。高校で3コース、これに中高コースが加わります。

中高コースではOSを中学で終わらせます。高校から入学する生徒は高校からOSに取り組みます。コースによって、OS3、OS4、OS5と到達進度は異なります。これに、PS3までが、コースに応じて追加されます。高校1年でOS、PSともに終わらせ、入試タイプの問題集につなぎます。論理エンジンは解答の手順を学ぶテキストなので、記述の問題集やセンター対策の指導がしやすいということです。

このような体制がほぼ固まるまでは試行錯誤の連続でした。最初は、国語だけでなくすべての教員が理解し、学校としての取り組みをする必要があるということから、担任がOS1を指導する形態でした。ロングホームルームの時間を使って指導しました。国語科の中でも、教科書をする時間が減る、語彙が入っていない、などの批判があったそうです。しかし、学校としての取り組みということで理解を求め、ここ数年では当たり前の取り組みとなってきました。

特に、高校から入ってくる生徒については、つまづきを振り返ることが大事になってきます。中学と高校、語彙や抽象度に違いはありますが、基本となる部分では共通することも多く、論理エンジンを用いて、「なんとなくわかる」から、根拠をもって誰がどうしたいのかをとらえられるようになることが求められます。

今後、新テストやSGH、国際バカロレアを見据えて、指導体制についても見直していくつもりということでした。


2015年4月3日金曜日

クリティカル・シンキングと論理エンジン(論理エンジンニュースレターより)

○クリティカル・シンキングとは何か
前回、国際バカロレアと論理エンジンの関係を考えるにあたり、「論理的・批判的に考える力」が求められており、そのための授業づくり、教育プログラムの開発が必要だということを書きました。先の中教審答申においても、再三「思考力・判断力・表現力」という言葉が出てきており、「自分の考えに基づき論を立てて記述する形式の学力評価を個別に課すこともあってよい」「知識・技能を活用して、自ら課題を発見し、その解決に向けて探究し、成果等を表現するために必要な思考力・判断力・表現力等の能力」(「思考力・判断力・表現力」)を中心に評価する。」と提案されています(中央教育審議会「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について」平成26年12月22日、p.13、15)。そこで、「批判的に考える」(クリティカル・シンキング)という観点から、今後生徒にどのような学習環境を提起していけばよいのかを、論理エンジンと関連させて少し考えてみたいと思います。
鈴木健・大井恭子・竹前文夫編『クリティカル・シンキングと教育』(世界思想社2006年)によれば、「クリティカル・シンキング」とは、「意見や考えを分析、批評、提唱する能力。自己判断に基づき結論を出すための方法論で、社会的な権力、利害関係や意見の対立にも注意を払って、従来の客観主義に対抗する形で発達してきた」(p.9)と説明されます。つまり、ある事柄について「ダメ出し」することが批判的思考ではなく、価値が多元化する社会の中で、与えられた情報や知識を鵜呑みにするのでなく、自分の見方や常識を捉え直し、複眼的に物事を考えたうえで、自分の主張を論理的に展開し表現すること、だと言えるでしょう。
クリティカル・シンキングの方法論は大きく5つに分けられます。①「認知的活動」(比較や分類の基本的なスキル)、②「発見的指導法」(内省の奨励、問題対処の戦略)、③「形式思考法」(具体から抽象)、④「言語教育と象徴行為」(作文構築)、⑤「考えることについて考える」(理由づけ、思考スタイル、一般化などの思考過程の考察)、です(同,p.9)。

○日本でのクリティカル・シンキング教育
鈴木健・大井恭子・竹前文夫編『クリティカル・シンキングと教育』(世界思想社2006年)では、ビールの銘柄のようにたくさんある「○○的思考」の見取り図において、これらを上から「理性」「知性」「感性」「情念」に分類したとき、「批判的思考」は「理性」の層から、「機能的推論」や「協同的問題解決」などを俯瞰する視点に位置づけられています(p.23)。
「知識か思考か」という議論は、明治初年の帝国大学創設時代にすでに存在しいた、という興味深い指摘もあります。既成の知識の習得を重視した東京帝国大学に対し、京都帝国大学では19世紀のドイツの大学において知識の発見と創造こそ大学教育の目的と捉えたことに着目し、ゼミナール形式を重視した、と言います(同,pp.26-27)。そして、今後の大学教育においては4つのC、すなわち「コミュニケーション(Communication)」「批判的思考力(Critical thinking)」「創造性(Creativity)」「継続的学習(Continuous learning)」が必要とされることが紹介されています(同, p.33)。
また、「クリティカル・シンキング」の具体的な実践として、亜細亜大学での倫理学の授業において、あるテーマについて学生に賛否の文章を書かせ、その中から数点を選んでコピーして配布し(匿名)、自分の意見と反対の意見に対して自分の意見を書かせて意見交換した後、ディスカッションさせるという事例が紹介されています(同,p.45)。
このようにクリティカル・シンキングの考え方や教育実践を眺めた時、論理エンジンを用いた授業のアイディアもいくつか浮かんできます。なぜなら、論理エンジンでは文章の対比構造の把握を修得するために、意図的に選んだ題材が多くあるためです。
例えば、新版のOS5のレベル45では、情報機器の発達とコミュニケーションをテーマとした題材となっています。これを単なる読み取りに終わらせずに、自分たちのLineなどのSNSとの関わりでディスカッションする授業があって良いでしょう。また、レベル47-3の環境を扱った題材では、調べ学習と合わせた展開も考えられます。

○「論理の実践」とクリティカル・シンキング
前回から、クリティカル・シンキングとは、ある考え方を否定することではなく、複数の視点で物事を捉えた上で、与えられた情報や自分のこれまでの経験で作られた常識の枠を超え、新たな知を創造する営みだということを一緒に考えてきました。そして、文章の対比構造の修得のために、意図的に複眼的視点が必要とされる題材を選んでいる論理エンジンを使って、こうした批判的思考力を養う授業づくりができないか、と考えてきました。今回は、「論理の実践」(PS)で使える題材がないかを見ていきたいと思います。
例えば、PS1のレベル55-3では「ゴキブリ」について、肯定・否定の立場から論じる興味深い題材があります。少しダレてきたかな、という時期に、ややお遊び的な雰囲気の中で、ディベートをする授業がイメージできます。また、PS3のレベル71-1では制服の是非について述べる問題が設定されおり、多くの生徒が関心を持つかと思われます。
論理エンジンには文化論を扱った題材も多くあります。例えば、PS3のレベル72では言葉と文化というテーマで、フランス語と日本語の違いや、男女における敬語の違いが扱われています。また、レベル75や、PS4のレベル87-5では主にアメリカ文化との違いが扱われています。「論理の修得」(OS)に戻れば、OS3のレベル26-5ではアメリカと日本の大学を、知識と論理の面から対比する題材があります。注意したいことは、各国の文化をステレオタイプ的に論じるのでなく、その国の歴史や社会状況までを視野にいれ、「なぜそうした文化が生まれたのか」という問いを育む授業を通じて、異文化理解という観点から表現できる生徒を育てることでしょう。そのためには、レベル80-4で扱う、漱石と絡めた日本の近代化の歴史にも触れておきたいところです。また、他教科と連携したり、学校行事と絡めたアプローチも考える必要があります。
PS4のレベル86で扱われるクローン羊ドリーの題材は、これからも大学入試において問われるであろう科学技術の発達と倫理などの問題を扱っており、議論しておきたい題材です。こうした授業を行う上で、『思考ルート』の著者加藤克巳先生の「学びあい」の実践http://www.kato-katsumi.netは、ぜひ目を通しておきたいところです。


国際バカロレアと論理エンジン(論理エンジンニュースレターより)

○大迫弘和著『国際バカロレアを知るために』(水王舎)

現在の文科省の動きの下敷きとなる一つの考えに、国際バカロレアがあることは皆さまご承知の通りです。しかし、年末の中教審の発表に先駆けて、論理エンジンの版元、水王舎から2014年9月に『国際バカロレアを知るために』という本が出版されていることは、あまり知られていないかもしれません。そこで、同書の出版記念シンポジウムの内容をもとに、出口先生が国際バカロレアと論理エンジンがどのように関係すると考えているかをお伝えし、今年度の論理エンジンの扱い方を一緒に考えていければと存じます。お伝えしたいことは、国際バカロレアや文科省の提起する「探求型学力」の基礎には、論理的に思考し表現する力がより強く求められている、ということです。
同シンポジウムにおいて、学校法人国際基督教大学理事長であり、日本アイ・ビー・エム株式会社の相談役でもある北城恪太郎氏が主賓挨拶として、「全部の大学の入学者選抜が、IBを基にしたAO入試に変わっていくべきだと思う」と述べています。特に、「知識を使ってどう課題を解決するかなど、自ら考える力、あるいは批判的な精神を持つこと」が求められる、と指摘しています。
http://www.deguchi-hiroshi.com/report/index.html
『国際バカロレアを知るために』の著者、大迫弘和先生(リンデンホールスクール中高学部校長、広島女学院大学客員教授)は、国際バカロレアとは「探究型概念学習を、リベラルアーツの枠組みで実施する全人教育」だと説明されています。

○徹底的に物を考える力
新年度の対応も少しは落ち着かれましたでしょうか。さて、前回のニュースレターでは年末の中教審の発表に先駆けて、論理エンジンの版元、水王舎から2014年9月に『国際バカロレアを知るために』という本が出版されていたことをお伝えしました。同書の出版記念シンポジウムにおける著者大迫弘和先生と出口先生の対談から、国際バカロレアと論理エンジンの関係を捉えたいと思います。
http://www.deguchi-hiroshi.com/report/report01/report01_4.html
パネルディスカッションでは、スーパーグローバルハイスクールやスーパーグローバル大学、「トビタテ!留学JAPAN」、国際バカロレアを担当されてきた上野通子氏(参議院議員、前文部科学大臣政務官)が、イギリスでの滞在経験から「目的意識を持って、将来自分が何をしたいか、国のために何ができるかを考えること。そして楽しく学ぶ」ことの重要性を実感したことから、試験のための大学入試からの転換が必要だと感じていたと話を始められます。続いて、鈴木寛氏(文部科学大臣補佐官)が、東日本大震災被災地の当時の中学3年生100人が参加した「OECD東北スクール」というプロジェクトにおける挑戦や思いやり、探求と考える姿勢が国際バカロレアの目指す学習者像と重なっていることを説明されます。また、寺脇研氏(元文部科学省審議官)が、30年近くかけて「生涯学習者」を育成する素地づくりが行われてきたことを、「ゆとり教育」と絡めて話されています。
こうした話と前後して、出口先生は、国際バカロレアのすごいところは「徹底的に物を考える力をつけていくところ」だと捉えます。そして、「現代文の読解問題には正解がある」と思いこんでいる子どもの例を出しつつ、決まった正解を早く見つけ出すテクニックでなく、客観的に判断して考える力を養う必要がある、と警鐘を鳴らします。
また、鈴木寛氏の「PISA調査で課題とすべきは、改善した読解力でなく、低下し続けている学習意欲」、寺脇研氏の「地殻変動が起こっているのは、進学系でない高校」という指摘も踏まえて、新年度の教育を考える必要がありそうです。

○論理的・批判的に考え書く力
『国際バカロレアを知るために』の著者大迫弘和先生と出口先生との対談で、大迫先生は国際バカロレアのプログラムの良いところを「学ぶことに対する姿勢とスキルを徹底的にトレーニング」するところだと評価されています。中でも、「リフレクション(省察)」の重要性を指摘されています。
http://www.deguchi-hiroshi.com/taidan/taidan12/taidan12_1.html#a01
大迫先生は、英語教育を例にとり、英語を使いこなせない原因は、学び手が必要性を感じないためだと指摘します。赤ちゃんがどのように「ママ」という言葉を覚えるか、それはその学習が必要であり、意味あることだからだという学習観に国際バカロレアは立っていると説明されます。こうした学習観に立つとき、重要なことは相手、学校でいえば生徒の状態をよく「見る」であり、それができるのがプロフェッショナルだと説明されます。決まった知識をただ伝えるよりも、生徒の状態に応じて教育を行うことの方がより専門性が必要となる、だから国際バカロレアでは教員研修が非常に重視されるとおっしゃいます。
これからの教育について、出口先生は「さまざまな情報を探し、真偽を確かめ、問題を発見し、解決していく」力が求められると指摘します。そのうえで、母国語、英語、数式などの「言葉」を用いてものを考え、表現する力が求められる。それに応えているのが国際バカロレアのプログラムだと評価します。そして、プログラムの中で、分析的かつ論理的な文章の読み方・書き方、「文章を論理的に読み、論理的に考え、論理的に表現していく力」が重要視されていることを指摘します。大迫先生は、「知の理論(TOK)」という授業で求められる8,000字(日本語)では、評価基準は内容ではなく、「主張を伝えるために、いかにうまく構成されているか、説得力のある例証があるか、具体的なものが加えられているか」「論理的・批判的にものを考えて書く力」であると説明されます。なぜなら、それらがないと学びが成立しないからだとおっしゃいます。
上記の対談を踏まえ、どのように「学びの必要性」が感じられるプログラムや、「論理的・批判的に考え書く力」を養う授業を作れるかを一緒に研究できればと思います。


2015年4月1日水曜日

中教審を読む(論理エンジンニュースレターより)

○中教審答申のポイント
 平成26年12月22日の中教審第96回総会で出た二つの答申がニュースとなりました。一つは、「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について」、いわゆるセンター試験を廃止した新テストの構想に関わるものです。もう一つは、「子供の発達や学習者の意欲・能力等に応じた柔軟かつ効果的な教育システムの構想について」で、小中一貫教育や飛び入学などの大学入学に関する内容でした。
 すでに大手テスト会社や予備校が情報をまとめていますが、答申の具体的な内容については割愛されていますので、当ニュースレターで複数回に分けて、その内容をご紹介できればと思います。そのうえで、これからの教育活動について、論理エンジンをどのように活用していくことができ るのか、ということをみなさんと考えていければと思います。
 具体的な内容については、次回のニュースレターで触れることとして、論理エンジンの観点からは、答申の文章に少しひっかかりました。特に、「新しい時代にふさわしい~」(資料1-2)の資料の「はじめに」の文章の途切れ感や、「そうした変化の中で、これまでと同じ教育を続けているだけでは、これからの時代に通用する力を子どもたちに育むことはできない」の「に」の使い方はこれでよいのか、という点です。みなさんの目からも、ぜひ一度確認いただき、意見交換できればと思います。

○中教審答申の問題意識
 平成26年12月22日の中教審第96回総会で出た「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について」では、大きく「高等学校基礎学力テスト」と「大学入学希望者学力評価テスト」が示されました。その問題意識を読み解きますと、次のような考えがあるようです。

・これまでに「確かな学力」(基礎的な知識・技能、これらを活用して課題を解決する思考力・判断力・表現力、主体的に学習に取り組む態度)を育むため、言語活動や探求的な学習方法の実践が研究されてきている。

・大学教育でも、学生が主体性を持って多様な人々と協力して問題を発見し、解を見出す能動的学修(学修:身に付ける、学習:繰り返し練習する)の充実に向けた教育改革が図られている(アクティブ・ラーニング)

・しかし、現在の入試制度では、そうした力が評価されない。少子化による大学入試の易化により、自主的な学習をせず、目標をもてないまま、基礎的な知識や技能が不十分なまま大学に入学してくる。こうした学生を大学だけでは教育しきれず、経済界からは不満の声があがる。

・18歳人口が平成33年ごろから減少に転じることを踏まえれば、高大接続の改善により教育改革の気運を高める必要がある。
どこまで現実味があるかは不明ですが、学校としての立ち位置は検討すべきだと思います。次回は、新テストの内容についてご紹介します。文科省のHPの資料1-1(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/gijiroku/1354209.htm)や、河合塾の大学入試情報「大学入試に新テスト導入へ 中教審が答申(14/12/26)」(http://www.keinet.ne.jp/topics/14/20141226.pdf)に分かりやすく表でその内容が示されているので、ご覧ください。

○二つの新テスト
 元々、中教審の要求する「アクティブ・ラーニング」は、大学での大教室における講義一辺倒の方法の改善が根底にあります。そこで要求されていることは、実は小学校の教室ではよく見られる方法であったりします。弊社で行っている授業アンケートの結果を見ますと、近年は興味深いことが分かりました。アンケート項目の中に、言語活動の充実に関する項目を入れている学校では、これらの項目が学力向上や授業への関心と高い相関を持っている教科が現れるようになったのです。これは、思考力・判断力・表現力に力を入れてきた学習指導要領の影響が、ある程度小学校で浸透しているためと推察できます。では、中学校や高校の授業形態は、こうした教育を受けてきた生徒たちに合っているのでしょうか?今、中学校での論理エンジンを用いた指導方法についてお話を伺って回っています。ぜひ、先生のお考えもお聞かせください。
 さて、中教審では、「高等学校基礎学力テスト」と「大学入学希望者学力評価テスト」の二つのテストを示しました。いずれも仮称です。詳細は前号で掲載しましたサイトに詳しく紹介されています。また、「論理エンジン研究会」のブログ(http://ronriengine.blogspot.jp)にも記載いたしますので、またご覧ください。
 重要な点は、大学入試において、合教科・科目型、総合型の問題が出題されるようになること、それはまずAO入試から始まるだろうと予測されることです。そこでは、複雑な課題に対して知識や技能を活用して探求的に表現することを求めるパフォーマンス評価や、複雑な課題の達成度を段階的に評価するためのルーブリック、様々な学習過程や成果の記録を蓄積して学習状況を把握するポートフォリオ評価が行われます。つまり、論理エンジンの学習においても、そのプロセスに着目した指導が必要となります。

○今年度での大学入試の動き
 では、実際に、中教審の言う「新テスト」に向けた動きはどの程度の影響を及ぼしているのでしょうか。
 例えば、上智大学はTEAP利用型入試、ということを始めました。これは、公益財団法人日本英語検定協会の実施するTEAP(アカデミック英語能力判定試験)を受講することで、英語科目を免除するという取り組みです。2月3日(火)に行われたTAEP利用入試の世界史では、史料読解と400字論述の国公立型の問題で、これまでと正反対の出題形式にとまどった受験生もいたかもしれません。加えて、単に世界史の知識を問うだけでなく、現代文の要約ができるかどうかも問われるという、合科型とも解釈できる出題となりました(参考:増田塾 解答速報2015 http://masudajuku.info/answer/)。
 東京大学が平成28年度から推薦入試を導入することが報じられましたが、その出願要件としてバカロレアやTOEFL,数学・科学オリンピック、総合的な学習の時間に関連する論文、課外活動やボランティア活動に関連した卓越した探求能力を証明するもの、などが求められています(参考:東京大学 http://www.u-tokyo.ac.jp/stu03/e01_25.html)。東京大学のこうした動きは、いくつかの大学においてもAO入試の比重をより大きくするなどの影響を及ぼすことが考えられます。
 下村文部科学大臣が在任する期間は、バカロレアを意識した取り組みも継続されるだろうという見方もあります。バカロレアの描く学習者像は「探求する人」「知識のある人」「考える人」「コミュニケーションができる人」「信念をもつ人」「心を開く人」「思いやりのある人」「挑戦する人」「バランスのとれた人」「振り返りができる人」であり、近年よく聞かれるようになった「アクティブラーニング」「協働学習」「ルーブリック評価」も、こうした学習者を育てるための具体的な教育アプローチや評価方法と言えます。各校においても、こうした観点から、自校の教育活動を振り返ってみる必要があるのかもしれません。

○変化を実感している学校
 今回の中教審の動きを実感している学校は少なからずあるようです。全私学新聞で大きく扱われた、ということを理由に挙げる学校もありました。中でも、文科省の推進するSSHやSGHに取り組む学校、申請しようとされる学校では、その求める学習者像が、中教審の示す学習者像と重なる部分があると感じているようです。そして、大学側にしてみても、推薦入試やAO入試を拡大することで、そうした取り組みをする学校との連携をしていきたい、という動きがでてくる可能性も考えられます。慶應大学や早稲田大学など、私学の雄を巻き込むことも、こうした動きを進めるための一手だろうと見る声もあります。私立大学の経営も補助金に依存する部分があることから、文科省の動きを全く無視することはできないだろう、ということです。
 このような動きを考えた時、難しくなるのは首都圏の中高一貫校ではないか、という大胆な予想をされる方もいらっしゃいました。つまり、センター試験の一点刻みの学力を追い求めて、部活もそこそこに勉強のみで実績を高めてきた学校は、もしこの動きが本格化すれば自分たちの教育活動を見直す必要がでるかもしれないとおっしゃいます。今回の中教審の求める学習者像では、急ごしらえではできない学力が求められます。その材料の仕込みを中学時代からいかに行っていくか。こうした観点で教育活動を見直す必要があるだろうということです。
 すでに取り組まれている学校はあります。例えば、開智高校の加藤先生の、「学びあい」をベースとした論理エンジン及び思考ルートの取り組みはその代表でしょう。これからも、こうした実践をされている学校にお伺いして、色々とお話をお聞かせ願えればと思います。


思考ルートの使い方(論理エンジンニュースレターより)

「思考ルート」は、教科書の題材を用いて「論理エンジン」と関連させながら論理力を鍛えようというコンセプトを持ったプログラムです。例えば、加藤先生は「論理エンジン」のレベル16の「具体と抽象」「イコールの関係」を生徒の学び合いを中心とする授業で扱います。大事なことは単なる答え合わせになるのでなく、お互いの考えた道筋を発表し、共有し、より論理的なものに作り上げていくことだと言います。「思考ルート」はこうした議論のたたき台としても使えます。
http://www.kato-katsumi.net/archives/67784095.html(2013.1.18)
 学校全体で「論理エンジン」を導入している学校では、教員の研修用教材として「思考ルート」を活用しようとされています。この春休み中に「思考ルート」の教師用教材を使って指導方法を国語科で考え、学期中や夏休みに振り返りを行うことを計画されています。

思考ルート (論理エンジンニュースレター より)

 「考える力」という抽象的な言葉を、具体的な教育実践として落とし込もうという試みが日本だけでなく様々な先進国で取り組まれています。これまでにも、ブルーム・タキソノミーなど、高次の認知能力とはどのようなものであるのかを明らかにし、考える力をもった生徒を育てる授業をつくろうとする取り組みはありました。しかし、教育実践として普及し改良される上で、先生たちが自分の取り組みを発表し、意見を交わしあう場と時間が十分にないことが問題となってきました。
 論理の匠である加藤先生は、ご自身の実践を発表するだけでなく、先生たちとの学び合いの場を定期的に持つことで、論理的に考えることをテーマにした授業の在り方を先生たちと協働して追求しようとされています。その話し合いの材料として、「思考ルート」という独自の教材を開発されました。
「思考ルート」では、先生がたにとって馴染みの深い題材を扱います。「希望としてのクレオール」「羅生門」「時間と自由の関係について」「映像文化の変貌」「知的創造のヒント」「水の東西」「自分・この不思議な存在」、こうした題材を用いて、どのようにすれば生徒が学び合いの中で考える力を身に付けることができるか。
加藤先生が実際に授業で行ってきたことをもとに、発問やポイントの指摘、説明、補足、学び合いについて先生用の教材も作成しました。加えて、実際に導入する際のモデル授業をDVDにしています。さらに、加藤先生が長年指導されてきたディベート授業についても教材とDVDを作成しています。
近年、この新年度を迎える時期に、指導者用の研修教材として、また新しく着任する先生の研修教材として、「思考ルート」の指導者用教材を購入される学校が増えてきました。もしご関心あればお問い合わせください。
(思考ルートとは何か)http://www.ronri.jp/contents/takumi/vol7/index.shtml